冬のあけぼの 平成いとおかし
朝日を見に行った。
僕の住む宮古市は、本州最東端ってことが売りらしいけれども。僕と前田はそんなことなんて考えずに約束をした。
ただなんとなく朝日が見たい。17歳という年齢を象徴できるくらい、純粋で少年な願い。
特に理由もない衝動のために、僕らは朝の4時半に集合した。
家の玄関を開けると、既に前田は待っていた。いつも時間には律儀なこの男を待たせることに、罪悪感をいつも抱くが改善しないことが僕の悪いところだ。
そんな僕の心に吹き込む空気は、「東北の10月」のために存在するかのように冷たい。
今にも耳は落ちそうだ。
僕らは簡単に挨拶をすませると、朝日を見るために、歩いて30分ほどの漁港に行くことにした。
今日は日曜日だから、漁は休みで見晴らしもいいはずだろう。
そんな思いとは裏腹に、2人で進む漁港までの旅路は時折、魚があざけるような匂いがしてくる。
それを嗅ぎながら僕は、この匂いも地元を離れれば嗅げ無くなってしまうのだと思い、少しだけ鼻の粘膜の奥に、不愉快さを記憶させる。
漁港に着くと流石に寒すぎたので、ミルクティーを自動販売機で買った。130円と引き換えに、カフェインと糖分、そしてなによりも温もりが得られるのだから便利な時代だ。
グーグル先生が言うところによると、日の出まではあと40分ほどあるようだ。
特に話す内容などないが、僕と前田だ。小学校1年生からの付き合いだ。12年目の僕たちだ。話す内容は無いようである。
高校3年間は意外とあっという間にだとか、この3年間から何を得ただとか。不思議と僕らの会話から生まれるのは、ここ3年間の話だった。部活の筋トレの話や、ポケモンの話。
他愛もない会話の中に生まれる安心感と、心地よさは前田でしか生み出せない、彼の内側のリズムだ。僕はこのリズムに依存している。もし婚期が遅れたら、今なら彼のせいにしてしまう。
そうこうしているうちに時刻は5時46分になろうとする。別に、自然が「この時間に上がるよ」って言ったわけではないが、グーグル先生の言うことを、素直に信じてしまう僕らは現代っ子なのだろう。きっと、本当は僕らが朝日が上がったと思えば、その瞬間が日の出になるのに。
グーグル先生は自然の上に立つことを成し遂げた。それはそれで偉大だが、その後に僕らを包み込んだ朝日の方が偉大であった。
海の向こう側にそびえる、重茂半島の裾を白く薄く染め、朝の訪れを色濃く伝える朝日だ。
意外と冬のあけぼのも悪くはない。澄んだ空気の向こう側から、ゆっくり昇る朝日を待つ。いとおかしって感じだ。
昇った太陽は漁港全体を、影に隠れて丸まった背筋を伸ばすように、大きく紫に照らし出す。
船を後ろから照らす朝日を見る僕らは、ちょっとだけ清少納言よりも贅沢をしている。
寒さを少し残ったミルクティーで飲み込んだ僕らは、ラーメンを食べたくなった。どちらが言い出したのか(確か僕だと思うが)お互い寒い朝に食べるラーメンに、この2時間で猛烈な憧れを覚えた。
しかし、我らがグーグル先生に聞けば、宮古にそんな店はないという。
僕と前田は、利害関係の一致しないこの街に悪態をつきながら、40分かけて、来た道を戻る。そして何のおもしろみもないマクドナルドに吸い込まれた。
完全には平安時代のような「おかしさ」に染まれない僕らは、時代を象徴するようだった。入口のピエロにも笑われた。
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